皆さま、ご無沙汰しております。
  現在、カンボジアにおいてJICA草の根プロジェクト『カンボジア モンドルキリ県 口腔保健向上プロジェクト』に従事しております牧野由佳です。
  前回は私が現在カンボジアに至るまでの経緯について書かせていただきましたが、今回はカンボジアの現状ならびに歯科保健事情について簡単に報告させていただきます。

1.カンボジアの現状

  皆さん、カンボジアに対してどういうイメージをお持ちでしょうか?
  内戦?地雷?孤児?貧困?これらは私が最初にカンボジアに対して抱いていたイメージでした。

  私は大学院在学中の2010年、はじめてカンボジア プノンペンを訪れましたが私のカンボジアに対する印象は大きく覆されました。まず街の中には高級ホテルや外資系企業支社、高層ビルが聳えており、高級外車を見かけ、建設中の建物が数多く存在し、街は若者であふれており・・・・・ プノンペンに対して急速に発展し、活気にあふれた街という印象を抱きました。

(写真左:プノンペンの街並み:新旧の建物が混在している。建設中の建物も多く存在している)
(写真右:プノンペンの街並み:プノンペンではバイクが非常に多いがバイクに混ざって日本・ドイツ製の高級車を数多く目にする)

  実際2001年-2010年のカンボジアの年間国内総生産成長率平均が7.7%(*1)でしたので、私が感じたことは至極当然なことであったのだと思います。
その後2012年4月よりプノンペンに駐在しておりますが、発展が更に加速しているような気がします。最近では日本のニュースにおいても経済発展や日系企業進出等々カンボジアに関する記事を目にする機会が増えてきたように思います。

  そのような都市部の急速な経済発展の一方、実はカンボジアの人口の80%以上(*1)は農村部で生活しております。更に世界銀行は一日1.25ドル以下で生活している場合を貧困と定義しておりますが、カンボジアの人口の4-5人に1人は貧困と分類されています(*2)
  従って経済発展に伴う急速な都市化は、都市部と農村部ならびに都市内部における深刻な貧富の格差拡大を引き起こしているようです。

(写真左:プノンペン近郊のスラム地区)
(写真右:プノンペン近郊のスラム地区:インフラが整備されておらず、非常に不衛生な環境で住民が生活している)

2.カンボジアの歯科保健事情

  次にカンボジアの歯科保健事情について説明したいと思います。

2-1. 歯科保健に対する国の取り組みについて
  さてカンボジアにおいて歯科保健はどういう位置づけになっているのでしょうか?
  カンボジア保健省では歯科保健は慢性疾患等とともに健康局の予防医学部門の中の一つに位置づけられています(*3)

  現在のカンボジアの保健政策は保健戦略計画Health Strategic Plan2008-2015(HSP2)ですが、HSP2は3つの保健プログラム分野(母子保健、感染症、慢性疾患)に規定されています(*1)。このうち歯科は慢性疾患に位置付けられておりますが、カンボジアにおいて慢性疾患が増加しているとはいえ、限られた予算の中でミレニアム開発目標(*4)でも挙げられている『乳幼児死亡率引き下げ、妊産婦健康状態の改善、HIV/AIDS、マラリア等の疾病蔓延の防止』に対する施策の優先度が高く、慢性疾患特に歯科保健の優先度は低く、保健省の歯科技官の話によりますと予算を得ることが非常に困難とのことでした。現在は民間企業他ドナーとの協力下、保健省の歯科保健部門では小学生に対する口腔衛生教育活動、母子に対する口腔保健教育活動等を実施しているとのことです。

2-2.歯科保健人材について
  カンボジアでは1970年より約20年間内戦が続き、ポル・ポト政権下の大規模な粛正等により多くの国民の命が失われました。特に多くの知識階級が殺害され、内戦を生き延びた医師は数十人、歯科医師については数人と言われています。

  内戦による医療・教育制度崩壊のため、カンボジアでは現在も医師・歯科医師・看護関連法規がなく、医師・歯科医師・看護師等の免許制度もないのが実情です(*5,*6)(看護関連法規に関しては現在JICAが策定支援中)。

  歯科医師に関してですが現在プノンペンに養成校が2校存在し、7年の所定の課程を経た後 Certificateを得ることができるそうです。現在Certificateを持つ歯科医師はカンボジア全土で600名、Certificateのない伝統的歯科医師が500名程度存在しているようです。保健省の歯科医師の話によりますと、歯科に関する関連法規ならびに免許制度がありませんので歯科医師の質を一定のレベルで管理することは非常に困難とのことでした。

  前述のCertificateを持つ歯科医師の約70%はよりよい稼ぎを得るためプノンペンにて開業しており、プノンペンでは非常に多くの歯科医院を目にします。一方で地方に行きますと歯科医師が非常に少なく、現在の私の活動地であるモンドルキリ県は人口が61000人以上いるにもかかわらず常勤の歯科医師はなんと1名しかおりません。
  歯科に関する専門職は歯科医師の他に保健センターにて勤務する歯科看護師(日本でいう歯科衛生士に近い役割)が存在します。歯科看護師は保健センターにて簡単な歯科治療・応急処置ならびに口腔保健教育を実施しています。

2-3.歯科医療保険について
  日本には国民皆保険制度がありますので保健診療であれば全国一律料金で同質の歯科診療が受けられると言われていますが、カンボジアにおいて国民皆保険制度はありません(*7)。従って、診療価格も医院によって異なりますし、一部の最貧困層等を除いて全額自己負担になりますので富裕層は歯科医療を受けることができますが、貧困層はなかなか歯科医療を受けることができない状況にあります。

3.おわりに
  今回カンボジアの現状ならびに歯科保健事情に関して簡単に説明させていただきました。急速な経済発展の陰で格差は広がっており、この格差は医療・歯科医療格差拡大にもつながっていると考えられます。

  現在、私はベトナム国境に面しますモンドルキリ県というところでプロジェクトに従事しておりますが、モンドルキリ県はカンボジアにおいて最貧県の一つであると言われております。モンドルキリ県では貧困層が多いだけではなく、就学率の悪さ、アクセス/コミュニケーション/インフラの問題、医療従事者の不足等々問題を挙げますと枚挙にいとまがありません。

  次回、モンドルキリ県において現在所属のNGOが実施しております口腔保健向上プロジェクトについて報告させていただきます。

  尚、記載いたしましたことは私の個人的な意見であり、関係する機関等を代表するものではありません。

参考文献:
1. WHO Health Service Delivery Profile

2. World Bank

3. Ministry of Health in Cambodia

4. UNDP

5. JICA保健人材育成システム強化プロジェクト

6. JICA保健人材育成システム強化プロジェクト

7. JICAカンボジア大国貧困プロファイル調査(アジア) 最終報告書