皆さま、こんにちは。
前回『カンボジアは現在急速に経済発展しており、その陰で社会格差が確実に広がっており、この格差は医療・歯科医療格差拡大も引き起こしている』と報告させていただきました。今回は上記問題解決のための取り組みの一つである(私が現在従事しております)、JICA草の根プロジェクト『カンボジア モンドルキリ州 口腔保健向上プロジェクト』について紹介させていただきます。

1. プロジェクト背景
プロジェクトサイトであるモンドルキリ州はカンボジア首都プノンペンより約400Km離れた緑豊かな山岳地帯に位置します。

図左:カンボジア地図
図右:モンドルキリ州は国の北東に位置しており、ベトナム国境に面している

熱帯モンスーン気候のカンボジアであるにも関わらずモンドルキリ州では気温が20度を下回ることも多く『高原の避暑地』の様相を呈しています。近年モンドルキリ州はこの地の利を生かし州の優先分野として観光を挙げ『エコツーリズムサイト』として州を国内外にアピールしております。1,2

写真左上:モンドルキリ州 州都センモノロムの様子 写真右上:州で見られる少数民族の伝統的な家屋
写真下:自然豊かなモンドルキリ州の様子

エコツーリズムサイトとして最近脚光を浴びつつあるモンドルキリ州ですが、実はカンボジアにおける最貧州の一つであります。カンボジア政府による貧困率調査によりますと3 モンドルキリ州の貧困率は32.9%でこれはカンボジア全23州+プノンペン特別市の中で5番目に高い貧困率になります。更に州人口の約80%が少数民族であるため1コミュニケーションの問題、識字率・教育レベルの低さ4、山岳地方であるが故のアクセスの難しさ5、インフラの未整備5 等多くの問題に直面しています。保健分野に関しては医療施設ならびに医療従事者が極端に不足しており、歯科医療に関して言えば2007年まで歯科医師が州に1人もおりませんでした。(2008年、当団体の支援により州に常勤歯科医師が1人配置されるようになりました。)


図:モンドルキリ州における社会問題

以上よりモンドルキリ州における歯科医療に関して ①治療を受けようにも病院にアクセスできない②病院にアクセスできたとしても歯科医師が1人しかいない③そもそも治療を受けるためのお金を住民が持っていない という悪循環が発生しています。
モンドルキリ州において住民の歯科健診をしておりますとほとんどの対象者において何らかの口腔疾患(う蝕または歯周病)が認められます。したがってできるだけ早くモンドルキリ州において何らかの手立てを打つ必要があります。

2. プロジェクト目標
歯科治療ももちろん重要なのですが上記のような状況下においては、住民に対して口腔健康増進・予防活動を実施し、”皆”が口腔疾患にならないようにすることがより現実的で効率的であると考えられます。しかし州において口腔健康増進・予防を主体となって実施するはずである州保健局、児童の健康を管理する州教育局においてこれまで口腔保健に関する活動はほとんど実施されていませんでした。これは前回お伝えしたように限られた予算の中でミレニアム開発目標6でも挙げられている『乳幼児死亡率引き下げ、妊産婦健康状態の改善、HIV/AIDS、マラリア等の疾病蔓延の防止』に対する施策の優先度が高く口腔保健の優先度が低いということと関連していると考えられます。
したがって本プロジェクトでは『州保健局ならびに教育局が自主的に口腔保健に関する政策・計画を立案し、継続的に州において口腔保健推進を行う』を目標とし、現在①Training of Trainers ②州保健局ならびに教育局に対する技術移転 を実施しています。

3. プロジェクト活動概要
①Training of Trainers (TOT)
本プロジェクト実施期間は2010年11月~2013年11月の3ヶ年になりますが、プロジェクト前半はこのTOTに重点を置いておりました。
本プロジェクトでは小学生と地域住民を対象として口腔健康増進・予防のための教育実施を計画しておりました。その為には教育を実践する人材が必要になります。教育の効率性ならびにプロジェクト終了後の継続性を考えますとすでに州で教育活動の経験があり、ある程度の人数が確保できる小学校教員ならびに保健センター職員やボランティアが教育を実施する人材(Trainer)として適任であると判断しました。
下記の図に示しますようにTOTでは州保健局歯科医師によるTrainerに対する教育、Trainerによる小学生ならびに地域住民に対する教育、州保健局歯科医師によるTrainerに対する活動フィードバック というサイクルを繰り返しました。

図:小学校・地域におけるTOT の様子 Trainerは当団体作成の教材を用いて①歯ブラシの方法②健康な口腔保健を保つための知識(ex.う蝕・歯周病の原因・予防方法等) について教育実施
本TOTの結果、Trainerの口腔保健の知識ならびに教育スキルが向上しました。そして各Trainerが定期的に小学生・住民に対して教育を実施しているため、小学生・住民の口腔保健行動ならびに知識の変容が認められるようになりました。

②州保健局ならびに教育局に対する技術移転
本プロジェクトではTOTが実施され、Trainerが小学生ならびに住民に対して口腔保健教育を実施するようになりました。しかしプロジェクト終了後、口腔保健教育をTrainerが継続的に実施し口腔保健を持続的に推進するには州保健局ならびに教育局が主体的に口腔保健推進をすすめていく必要があります。したがってプロジェクト後半では州保健局ならびに教育局に対する技術移転・協力に集中的に取り組んでおります。具体的には州自らが口腔保健に関する政策・計画を作成できるよう計画立案支援のためのワークショップの開催、口腔保健に関するデータ収集・解析法に関する講義、両局と共に口腔保健に関するお祭りの企画実施 等様々な取り組みを行ってきました。

写真上:口腔保健計画作成ワークショップの様子
写真下:口腔保健のお祭り『Happy Smile Festival』の様子

州に対する技術移転に関してはカンボジアのガバナンスの問題、オーナーシップを持たせることの難しさ、口腔保健の優先度の低さ等の問題があるためなかなか成果に結び付けることが難しいのですが、現在州では口腔保健推進計画作成・国への予算申請を実施し口腔保健に積極的に取り組みはじめています。

4. おわりに
プロジェクトも残すところ半年になりモンドルキリ州において徐々に口腔保健が根付きはじめています。しかし、私たちのプロジェクトにおいてこれまで日本人職員が主体的に活動してきたため、現地の人々には『受け身な姿勢』『やらされている感』が今も尚、漂っております。カンボジアは内戦後、様々な国・機関より支援を受けており非常に支援慣れしているように感じます。またカンボジアでは公務員の給与が非常に低く(ex. 学校教員月収約80USD)兼業しており、本プロジェクトに関わる余裕のない方も多くおります。このような状況の中で現地の人々にオーナーシップを持たせるにはどうすればよいのだろうかと最近悩むことが多いのですが、やはり現地の人々に問題に気づいてもらい『自分たちで改善しなければならないんだ!』と強いやる気を起こすことが非常に重要であると感じています。そのためには現地の人々に口腔保健の問題をしっかり理解してもらう必要があり、現地の人たちとの緊密なコミュニケーションならびに信頼関係構築が重要になってきます。このプロジェクトに関わらずどこの社会でも言えることだと思いますが信頼関係構築には非常に時間がかかります。尊敬している恩師より頂いた『国際協力は非常に時間がかかる。自分が活動している間に全く成果がでないことも多い。自分のやりたくないこともやらなければいけないかもしれないし、プロジェクトの駒として働かなければならないことも多くある。そのような状況に満足できなかったり、国際協力という言葉の響きだけに憧れているだけであったらこの仕事は非常につらいかもしれないし辞めた方がよいかもしれない』という言葉がいつも心に残っています。その一方で実際に草の根で活動していると現地の声がダイレクトに伝わってくるので小学生から『ありがとう』と笑顔で言われたり、口腔保健に対する現地の人々の姿勢が徐々に変化してきているのを肌で感じるとこの仕事に従事できてよかったなと感じています。

次回以降カンボジアにて参画したその他のプロジェクトについて紹介したいと思います。長い文章を最後まで読んでくださりありがとうございました。
尚、記載いたしましたことは私の個人的な意見であり、関係する機関等を代表するものではありません。

参考文献
1: Eco-Tourism Mondulkiri Province, Ministry of Tourism, Department of Tourism Mondulkiri Province
http://www.ecotourism-mondulkiri.com/Present.aspx?Lang=0&oID=2&strHeader=Geography (Accessed 27 May 2013)
2: プロジェクトニュース, Japan International Cooperation Agency (JICA)
http://www.jica.go.jp/project/cambodia/0601408/news/general/20100224.html (Accessed 27 May 2013)
3: Poverty Scorecards Update 2012_Eng, United Nation Development Programme (UNDP), Cambodia
http://www.un.org.kh/undp/mdgs/cambodian-mdgs (Accessed 27 May 2013)
4: General Population Census of Cambodia 2008, National Institute of Statistics, Ministry of Planning, the Kingdom of Cambodia
5: Provincial Profile in Mondulkiri, World Food Program (WFP)
http://www.foodsecurityatlas.org/khm/country/provincial-Profile/Mondulkiri#section-1 (Accessed 27 May 2013)
6: ミレニアム開発目標
UNDP, http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/index.shtml (Accessed 27 May 2013)