ICBコラムVol.4:デジタル・ワークを快適に(東京女子大学教員:安部由紀子氏)

こんにちは、ICB事務局です。
記録にも記憶にも残る暑さがだんだんと収まり、吹く風が秋を感じさせる今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

ICBコラムVol.4
2018年10月19日の第77回講演会で講師を務めていただきました東京女子大学の安部由紀子氏より、このコロナ禍で突如として始まった教育現場でのデジタル化で感じたことについて ご寄稿をいただきました。
教育現場だけでなく、民間企業など幅広い場面に当てはまることも多いかと思いますので
是非ご参考にされてはいかがでしょうか。

デジタル・ワークを快適に

2020年9月15日
安部由紀子(東京女子大学教員)

 
コロナウィルスの蔓延で、教育現場でもオンライン講義、オンライン学会の導入など、一気にデジタル化が進みました。
学生の孤独、精神面でのサポート、教育効果など、対応、検証しなくてはいけない点は様々あるのですが、これからデジタル時代を生きていく学生達にとってICTの知識・リテラシーは必須で、今回の半強制的なオンライン講義への切り替えで、学生、教員が教育現場で向き合っている挑戦は、オンラインでの可能性を広げる建設的なものにもなっていると思っています。
私自身は3月頭から大学研究室に一度もアクセスしないまま前期の講義、研究、産学連携のプロジェクトを終えました。これは、現職前のキャリア(国連、米国・シンクタンク、新聞社)で長年リモートでも仕事をしてきた教訓から、デジタル化、ICTインフラの構築を進めていたおかげでもあります。様々な職場で既に導入されているかとは思いますが、デジタル・ワークを快適に進めるために、良かったこと、自分の机まわりでしてきたこと、教訓を共有してみます。

書類の電子&クラウド管理

資料は電子ファイル、印刷物も極力PDFにして電子、クラウドで管理をしています。組織で管理する資料は、個人フォルダ、共有フォルダに分け、役職、担当業務に応じたアクセス権の付与などを設定してもらっていました。そのため、フォルダ、ファイルは、誰が見てもすぐわかるように、項目、年代ごと等に分けて、例えば、「201704_Press Release」←2017年4月のプレスリリース などフォルダ、ファイル一つひとつの名前の付け方、統一性も気をつけていました。開発途上国の奥地など電波状況が悪いところからアクセスすることも考慮して、重要なファイルや写真は、オリジナル版と、軽量版などもパターン分けするようにしていました。同じ名前のファイル名のバージョンがいくつもあると混乱のもとのため、更新日時をファイル名に追記するか、古いものは「Archive」フォルダをつくってすぐに格納していました。
また、7年間勤務した国連では、はんこ文化がないので電子署名、電子システムを使った電子決済ができていました。他国でもできているので、日本でも導入は無理ではないように感じています(国連勤務中、仕事ではんこを使うことは一度もありませんでした)。

情報の精査

個人によって感覚の違いもあるので、何をどこまでクラウド化するか、誰がアクセスできる設定にするか、どんな書類に鍵をかけるかなど、目安があると、本人も安心ですし、組織の危機管理としてもよいのではと思います。こちらは、厳しすぎては機能しませんし、担当者でないとわからない部分も多いので、自らルールをつくって、提案したりしていました。

マニュアル

急な体調不良などが起きても、誰かが同じ仕事ができるように「ナレッジ・マネジメント(知識の共有)」ができるシステムを構築し、細かい点はすべて紙と電子マニュアルにして、その関連電子書類の場所へのリンクをつけて定期的に更新していました。
私はキャリア・スタートが新聞記者で、不慮の事故や災害現場を多く見てきたこともあり、明日急に職場に来られなくなっても大丈夫なようにと、極力迅速に持てる知見は共有&電子化&クラウド化するようにしていました。
国連では、Twin Arrangement という制度で、休んだ際に、同じ、あるいは類似した仕事をしていてバックサポートしあう相手が固定で決まっていたおかげで、仕事内容の共有が常時できていたのも良かったです。

日頃からの訓練

国連では、定期的に〝在宅勤務〟を含む「BCP (Business continuity planning、事業継続計画)」トレーニングをしていました。トレーニング前に、何を訓練するか部署、事務所ごとに項目を決め、当日に実践し、翌日以降振り返り&問題点の洗い出し&解決もしていました。デスク電話もFAXも外から転送設定をかけ、送受信する訓練をしていました。
そのため、電波さえ使えれば、東日本大震災直後も、荒天時も、海外出張中でも、自宅やホテルで自分のデスクにいるのと変わらない業務が遂行できていました。状況によっては電波がない事も考慮して、機密や個人情報でない公になってよい写真やデータなどは、出張時はノートPCでも一部管理をしていました。
国連での危機管理は、オンラインで複数フェーズでの危機管理トレーニングを受け、試験で一定以上のスコアを取ることが義務づけられていました。地雷の見抜きかた、武装勢力に襲われた場合など、日常ではあまり遭遇しないと思われるものもありましたが、出張時や惨事においては、やはり事前の知識構築は大きな安心材料になっていました。

コミュニケーションツールの確立&フォーカルポイント

日頃から、Polycom、 Teleconference System, Skype、Zoom、WebEx、What’s up など、用途に応じてオンライン会議がつくれるように設定できていると、平時も使えますし、非常時もあわててID登録や使い方の勉強をしなくてよいので便利でした。
中国など特定の国からアクセスできないツールを事前に把握しておけるので、参加メンバーに応じて手段も決められます。オンライン会議は、議論に応じて、フォーカルポイント(責任者)、アクションポイント(実行するポイント)、締切なども明確に決めていました。国をまたがって直接会ったことがない方とチームを組んで仕事をすることも多くあったので「想像力」(相手の文化、仕事の進め方、インフラ状況、時差、体調など)も大切にして、わからないことは、勝手に自分の価値観で決めるのではなく、聞くようにしていました。この想像力がリモートワークにおいても日々のコミュニケーションにおいても大切なキーワードのように思います。

ICT技術&リテラシーの定期的なアップデート

社会の変化に合わせて少しずつハードもソフトも更新しておかないと、いざというときに精神論では乗り越えられない技術的問題が生じると感じております。コロナ禍で関わった組織でも、日頃の積み重ねで、コロナ禍のICT対応、教職員・学生サポート体制にも大きな差が出ているのを目の当たりにしました。
WiFi、PC、セキュリティソフトなどハード面はもちろんのこと、IT部署&人材、サポート体制、日頃からのICTトレーニング、個々人の学ぶ姿勢、時代変化を受け入れるマインドなどの重要性も感じています。自宅の環境は、自己投資や努力でも補えますが、職場の環境、システムはやはり組織として動いていただかないと限界があります。それは組織の競争力や効率化にも跳ね返ってきているようです。
また、知識がないと「ICTは危険だから利用しない」という端的な結論に至ってしまうこともあり、それは非常にもったいなく、何が危険で何が危険でなく、危険回避のために何ができるか、それは日々自身が勉強し、体感しながら、リテラシーを身につけていかなくてはなかなか判断できないものと思っています。

ライフハック

例えば、名刺は携帯アプリ「エイト」を使って、書類は携帯アプリ「Scanable」を使ってPDF化して、パスワード付きのクラウドで電子管理するなどしてきたので、オフィスにいけなくても連絡先がわからなくなる、書類、講義資料にアクセスできないということもなく、仕事ができました。便利なデジタルツールも次々開発されているので、「デジタルお道具箱」の定期的な見直しもしながら、快適なライフハック生活をしたいと思っています。

日頃からの人間関係

困ったときに電話をしたり、メールしたり、助け合える人間関係を持っておくこと。Give & Take ではなく、相手のことを思いあえる、声をかけあえる人が周囲にいるということは大切なことだと改めて思いました。オンライン講義開始後、教員以外のデジタルが得意な友人達が「このツールは、遠隔講義に役立つのでは」などと様々なアイディアを共有してくれました。私も身近な方でICTにお困りの方へお声がけをし、知見共有をするように心がけていました。
国連勤務時代に、Social Good Summit という、SNSやテクノロジーを活用して、Social Good (社会に良いこと)を推進していこうというイベントを毎年9月の国連総会に合わせて企画・運営していました。テクノロジーを活用することで、(もちろん全部ではありませんが)無理だと思うことも実現し、乗り越えられる事例もたくさん見せていただきました。毎回世界が無限に広がるようでした。

コロナ禍で様々な制約がある日々は辛いですが、感染予防に加えて、デジタルもうまく活用しながら、少しでも快適に、社会や人とのつながりが深められる機会を模索していきたいとと思います。

みなさま、どうぞお気をつけてお過ごしください。

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