ICBコラムVol.5:国際機関での「コーヒー」の重要性(理事:柏木茂雄)
こんにちは。ICB事務局です。
新型コロナウイルスのワクチン接種は進むなど、悪いニュースもありつつも状況が好転しそうな兆しも見えてきた今日この頃ではございますが
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
ICBコラムVol5
今回は国際会議経験の豊富な柏木理事が会議の合間のコーヒーブレイクの重要性についてコラムという形で紹介いたします。
国際機関での「コーヒー」の重要性
ICB理事
柏木茂雄
(元IMF理事)
国際会議への参加経験のある方は、コーヒー・ブレークの重要性を充分ご存知であろう。セッションとセッションの間に15分程度の休憩時間が設けられ、ロビーで提供されるコーヒーを片手に参加者と談笑し、初対面の方に自己紹介するとともに旧知の友人に近況報告する機会となる。その上、議論に積極的に関与する観点から自己の主張を舞台裏で根回しする場であり、他の参加者の意向を探るための貴重な機会でもある。
最近は全てオンライン開催となり、このような貴重な機会が奪われており、会議運営が難しくなったとの意見も聞く。
直近2回のICB講演会(6月23日の奥田敦子さん及び7月1日の滝澤三郎さん)において期せずしてお二人とも国際機関で生き抜くための秘訣の一つとして「昼食やコーヒーを活用せよ」と助言されていた。お二人同様、国際機関経験が長くなった筆者としては思わず「全く同感!」と叫んでしまったが、この助言の本当の意味は国際機関経験がないと分かりにくいかもしれない。国際会議での「コーヒー」と異なり、職場としての国際機関での「コーヒー」にはどのような意味があるのだろうか?
まず、重要なのは我が国と国際機関でのオフィスのあり方の違いについての認識である。我が国の場合(最近は在宅勤務により事情が変わりつつあるとはいえ)基本的に大部屋で同僚と一緒に仕事するケースが多いが、国際機関ではプロフェッショナルとして仕事する以上、個室が与えられるケースがほとんどである。昼食時となると、我が国では大部屋から同僚と連れ立って食べに行くケースがほとんどとなり、職場で必要なコミュニケーションはその場で十分とることも可能となる。しかし、国際機関ではこのようなケースは稀であり、社内であっても予め知人・友人とアポを取って一緒に食事をするか、あるいは一人で食べることになってしまう。筆者の場合、極端に言えば隣の個室にいる同僚とさえ一緒に連れ立って昼食に行くケースは皆無であった。
このような事情を反映して、我が国の場合と異なり、国際機関でよく見られるのが「コーヒータイム」で、1日2回(午前10時半頃からと午後3時頃から)キャフェテリアにおいて(有料で)コーヒー・紅茶や軽食が提供される時間がある。もちろん一人でコーヒーを飲みに行っても良いが、多くの場合は同僚や友人等を誘って、短時間で仕事上の相談事や情報交換を行うための場として積極的に活用されている。
なお、国際機関において新入社員に対して先方から昼食やコーヒーに誘ってくるような心優しい上司・同僚はほとんどいないと思った方が良い。他方、こちらから「昼食やコーヒーに行きませんか?」と誘ったとしてそれを断る人もほとんどいない。なぜなら、昼食やコーヒーが社員同士の重要なコミュニケーションの場であるとお互いに十分認識しているからである。
将来的に国際的組織での勤務を希望されている方は、このような違いも念頭に入れておくことが望ましい。すなわち「郷に入っては郷に従え」で、国際的組織に入った場合は、積極的に上司、同僚、部下を昼食やコーヒーに誘い、コミュニケーションを図り、組織に慣れ親しむ努力を払う必要がある。このような努力を積み重ねることにより、はじめて社内のネットワークに一人前として組み入れられ、結果的に国際機関等で生き残ることに繋がるのであろう。