【伝承】インタビュー 木原 隆司氏「“協調”できる強靭な国際人を作る」 ③

「“協調”できる強靭な国際人を作る」 ③

木原 隆司(きはら たかし)獨協大学経済学部教授

木原先生は、1980年に大蔵省(現財務省)に入省されて以来、さまざまなグローバル交渉を担当されてきました。その他、外務省、米州開発銀行、アジア開発銀行研究所等の国際機関、長崎大学・九州大学等の研究・教育機関での多彩なご経験を経て、現在は獨協大学経済学部で強靭をとられています。
今回は、長年にわたって国際交渉を積まれたご経験を踏まえ、「グローバル人材育成」をテーマにお話を伺いました。
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インタビュアー:河合朋奈

“協調”しよう

河合:ご専門の話に戻ってしまうのですが、複数のご専門分野がある中で、最初の研究は何だったのでしょうか。

木原:「国際公共財援助」です。地球環境ファシリティーという、地球温暖化等の環境問題において発展途上国に援助を行うファンドがあるのですが、私が開発企画官をしていたときにそこの評議員を兼任していました。多くの国に便益が及ぶ公共財を国際公共財と言います。たとえば、二酸化炭素の排出削減につながる、太陽光発電のパネルなんかがそうです。国際公共財で問題になってくるのが「ただ乗り」という現象なんです。

河合:「ただ乗り」とは何でしょうか?

木原:例えば、日本が援助しなくても他の国が援助することで世界的に便益が及ぶなら、自分が援助しなくてもいいよね、という考え方です。どこの国もそう思っていると、結局みんなが援助をしたがらなくなってしまう。先ほどの地球環境ファシリティーの拠出金は、割合でいうとアメリカが一番、日本が二番目に大きかったのですが、当時アメリカが支払いを渋っていたんです。日本は拠出金の支払いに前向きだったのですが、財務省としてはアメリカに「ただ乗り」させないために、何とかして日本が出す前にアメリカに出してもらうように働きかける必要があった。

河合:そこで、アメリカにはどのように働きかけたのですか?

木原:出さないことに対する罰則をきちんとつけるということですね。

河合:逃げられないようにする?

木原:そう。他の国と話し合って、今出したらプラス、今出さなかったら罰則、というルールを作った。例えば、今大きいお金を出したら増額としてカウントするけど、今出さなかったら減額としてカウントするよ、と。最終的にアメリカは出してくれました。

河合:なるほど。結局罰則を設定するにしても、相手に納得してもらえるように論理を通さないといけない、ということですよね。

木原:そうです。実際にどういう制度を作ったら、関係国すべてが、全世界に便益が及ぶよい取り組みに対してきちんとお金を出すようになるのか、ということを地球環境ファシリティーの仕事をしながら考えていました。「国際公共財援助」の次に「援助協調」という研究をしたのですが、これも実務における必要性から始めた研究です。援助協調の必要性を感じた例として、ベトナムの国道五号線を挙げましょう。ベトナムの国道五号線は途中までは日本が、途中からは台湾が作ったんですが、台湾が作ったところから突然車線の数が大幅に減っていて、その結果渋滞等のトラブルが生じ、結局下道を通る車が増えてしまったんです。だから、援助しているそれぞれの国が色々な意味で協調して援助を行わないと、せっかく援助をしても意味がないと思うんですね。特に、日本に関しては、ODAマークをつけて、日本が援助をしたということをアピールしたがる傾向が強かったので、援助協調というものにネガティブだったんです。私は財務省の人間として、そのようなODAマーによる、日本が援助したという証拠よりも、日本の援助によって途上国の経済活動が盛んになり、それで日本の企業が増えたりして日本にも経済的なメリットが及ぶことにこそ意味があると思っていました。だから、私は、援助協調の研究を行うことで、いかにみんなで協調して援助を行うことが大切かということを理論的に証明したかったんです。

河合:先ほどは、対外交渉の前提として国内の「協調」が必要だというお話でしたが、こちらも「協調」がキーワードになるのですね。

木原:そうですね。最後は協調・協力なんですよね。やっぱり国際社会は協調した方がいいですよっていう風に最後はなるんですよ。私にとっての究極の目的は、先ほどの地球環境ファシリティーの話もそうですけど、協調っていうのをどう自然発生的に持っていけるか、なんです。そのための制度作りなんですよ。

河合:実務から研究まですべて一本の線のようにつながっている、というのが素晴らしいですね。

木原:実務ベースでしか研究できないんです。やはり、自分と何も関係のないところで研究をやる頭は私にはないですね。

④へ続く

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