第1回 G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言を読む

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第1回目は、2008年に日本で開催されたG8北海道洞爺湖サミットの首脳宣言文を取り上げました。首脳宣言だけで70以上のパラグラフがあるのですが、首脳宣言以外にも「世界の食糧安全保障に関するG8首脳声明」や「テロ対策に関するG8首脳声明」などが出されています。
  今回の講義では、この北海道洞爺湖サミットの際に大きなテーマとなった環境問題の部分に焦点をあてて、各パラグラフから読み取れる環境保護派の考え方や経済成長重視派の意向、さらには両者の調整の結果として年輪のように文章に反映されている合意までの議論の経過を読み込んでみました。

  例えば、この首脳宣言ではパラ23で環境保護重視の立場の主張と思われる”Sectoral approaches are useful tools among others for achieving national emission reduction objectives.”というセンテンスがありますが、そのセンテンスの前には”These plans may reflect a diversity of mitigation and adaption approaches.”とのセンテンスが挿入されており、また後ろには”We recognize that what the major developed economies do will differ from what major developing economies do, consistent with the principle of common but differentiated responsibilities and respective capabilities.”というセンテンスを書き込んで、「各国の個別事情への斟酌」といった典型的な妥協点の探り方をしている点に注目することができます。

  また、国際共同文書では他の既存の文章からの引用をよく行う点に触れつつ、引用される文書が自分にとって必ずしも望ましくない場合の削除に向けた議論の仕方(初歩的には必要性の有無を議論する〜高度な技としてはあえて引用する文書を増加させることで、個別の引用文書の意義を希薄化(さらには一律に削除させる方向にもっていく)を目指す方法など)について説明し、多種類のカードを持っていると自分の交渉力や現場対応力がつくことについて学びました。

  その他にも、コンセンサスを模索するキーワードとして、”appropriate”, “where applicable”, “taking into account”などが文脈の中でどのように使われているかについても説明し、理解を深めることができたと思います。

  今回の「汗と涙の結晶」キーフレーズは
“common but differentiated responsibilities and respective capabilities (para 23)”です。

講義資料(レジュメ)
講義資料(読み込みテキスト)

第2回 G8キャンプデービットサミット文書を読む

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第2回目は本年2012年のG8サミットの共同宣言を取り上げました。本年の4月〜5月にかけての世界経済情勢においては、なんといっても欧州の経済情勢がトピックになります。今回は、従来、一環して財政規律の原則に厳しい姿勢で取り組んできた欧州が、目の前の経済危機に直面し仏の大統領選挙の結果も踏まえ、経済成長路線に配慮せざるを得なかった事情が、採択されている共同声明からもにじみ出ていることを読み取ることができました。

  講義では、首脳宣言を財政規律派の主張の反映のされ方、経済成長派の主張の反映のされ方について、各パラグラフで使われる動詞や接続詞でどのように「主」と「従」が入れ替わるか、また動詞の選択で文章の強弱・温度感が大きく変化すること、さらにはあるセンテンスの動詞の選択で自らの主張が飲まれなかった場合に次善の策としてどのような交渉の仕方があり得るのかについて等、実践的な交渉の側面にも触れながらG8サミットの文書を読み込みました。

  今回の場合、特に直面する経済危機の度合いを反映して、ちょうど1年前のドーヴィルサミット(仏)で採択されていた文章との違いが如実に現れていました。各国(例えば最も財政規律に厳しいドイツ)の経済危機へのスタンスがわかっていれば、どの文章のどの部分はどの国が主張したであろうことは推測できるようになります。ちょうどフランスの大統領選挙でサルコジ前大統領が敗れ、新しくオランド氏が大統領になったことも共同声明に反映していると言うことができます。

  こうして経済成長重視への転換が読み取れたわけですが、他方で諸手を上げてその方向に突き進むわけではなく、インフレへの懸念をきちんと配慮し、持続可能な経済成長を目指すという形で財政規律とのバランスを取ることでマーケットに対して発するメッセージとしての共同声明の位置づけにも十二分に目配りした内容になっています。

  また、今回の講座では実際に財政規律派として、あるいは経済成長派として、以下の実際に合意されているG8サミットの文章をそれぞれの立場から改めてドラフトするということを試してみました。その結果と現実に各国が合意しているパラグラフを比較することで、どのような意図が文章に込められているのか、一層理解が深まったことと思います。

Paragraph 6.
“We agree that all of our governments need to take actions to boost confidence and nurture recovery including reforms to raise productivity, growth and demand within a sustainable, credible and non-inflationary macroeconomic framework.”(経済成長派)

“We commit to fiscal responsibility and, in this context, we support sound and sustainable fiscal consolidation policies that take into account countries’ evolving economic conditions and underpin confidence and economic recovery.”(財政規律派)

  今回の「汗と涙の結晶」キーフレーズは現下の欧州経済情勢を踏まえてぎりぎりの調整であったことがにじみ出る以下のフレーズです。
“take into account countries’ evolving economic conditions and underpin confidence and economic recovery.”(para 6)”です。

講義資料(レジュメ)
講義資料(読み込みテキスト)
講義資料(参考資料1)

第3回 リオ+20 共同宣言を読む1

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第3回目は1992年に開催された、いわゆる地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)から20年を経て、再びブラジルのリオデジャネイロで開催された「リオ+20」の文書を取り上げました。

  リオ+20の成果の是非自体は本講義での議論の対象ではありませんが、取り上げた文章(パラグラフ)から読み取れるいくつかのことは、第1回、第2回の講義で学んできた交渉時の取りまとめ方(文章上の修辞)のノウハウがそのまま反映していることを確認できたり、パラグラフの内容が必ずしも論理一貫性がない点で多方面に配慮(逆に言えば、1つの方向性を打ち出すに至るまで議論できなかった、あるいは対立が先鋭化していた)していることなどです。その対立具合からは、今後も同様の主張の対立がしばらくは併存するであろうことが予想されます。

  今回の講義の中では、1つのパラグラフを取り出し(パラグラフ56)、そのなかで一番ベースとなっているシンプルな主張について、参加者自身が実際に英文を作成してみた上で、個別の修辞句、挿入句などによりその主張の意味合いがどのように変化していくのか、別の立場に配慮することで当初の主張の「色濃さ」が薄められてゆくプロセスを体験してみました。これにより、単に読む英文として眺めているのと自分がドラフティングに関わって行く場合の感覚の違いを体験できたと思います。

  また、このように実際の議論の場を想定しつつ合意を目指して文章に手が加わって行く過程を体験した上で、今度は出来上がった文章から実際にさまざまな立場の主張がなされたであろう「順番」を推測してみるということも行いました(パラグラフ8)。こうした「順番」の推測を行うことでより現実の会議の状況に想像を膨らませることができます。

  さらに、もし自分がその場にいる当事者であればどのような反論を行うのか、反論の仕方/パターンについても簡単に触れました。自分の主張を通し、あるいは反論を適切に行うためには、論理的な主張が不可欠です。今回の講義で触れたのは、主張(反論)の際のチェックポイントとして1)主張の根拠が事実か価値判断か(事実の場合には出典の確認)、2)原因と結果の関係か、単なる相関関係か、3)同一の俎上で議論しているか(平仄はあっているか)、4)同一内容の繰り返しではないか、5)包含関係にないか等です。こうした、いわゆる「ロジカル・シンキング」は国際会議の場で行う発言には不可欠のものですので、今後も折りに触れて本講座で取り上げていきたいと思います。

  今回の「汗と涙の結晶」キーフレーズは、リオ+20が「成果がなかった」と評価される可能性も否定できない、骨抜きを重ねていると言える以下のセンテンスです。
“We affirm that there are different approaches, visions, models and tools available to each country, in accordance with its national circumstances and priorities, to achieve sustainable development in its three dimensions which is our overarching goal.”(para 56)”です。

講義資料(第3回レジュメ)
講義資料(リオ+20 共同声明 “The future we want”)
講義資料(参考:日本政府提案)

第4回 リオ+20 共同宣言を読む2

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第4回目は第3回に引き続き「リオ+20」の文書を取り上げました。

  前回に引き続き、リオ+20の文章を取り上げました。第1回と第2回では、文書を読む前に大きく異なる立場の解説をした上で、その立場の違いがどのように文章に表現されているのかを学んできました。第3回からは、事前の背景知識なしに、まずは英文を読み、そこからどのような立場を読み取ることができるのか、その結果としてどのような対立が背景にあるのだろうかを探る技を学ぶ段階としています。つまり背景を踏まえて英文表現を理解していく段階から、英文表現だけを読んでその背景の理解をしていく段階です。

  まずは第1回のときに学んだ対立する立場を妥協させる典型的なフレーズを確認し、復習の教材としてパラ69、パラ71を取り上げました。
  続いて、今回の学びの目的である「英文表現だけから読んでその背景を理解する」といった読み込みの技の基本となる「ロジカル・シンキング」の側面に焦点を当てて、文章の構造を論理的に把握するとともに自分が現場にいたらその場で反論等の主張ができるようになるための思考プロセスを学びました。

  例えば、取り上げたテキストの中で、ロジカル・シンキングの基本の1つであるMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhausive)を踏まえると、「経済援助」にはどのようなメニューがあるのか、その上でなにがテキストに含まれていないかを読み取ることで、欠如している要素に何らかのメッセージが含まれているということを読み取ることができました。こうして、過去/現在/未来といった時間軸、先進国/発展途上国といった経済発展度合いによる定義付け、相関関係と因果関係の違い、MECEから発展して一般的に許容されるカテゴライズの有用性(義務/権利、費用/効果、PDCA(Plan,Do,Check,Act)、ヒト/モノ/カネ、国内/国際などなど)などの説明をし、理解をした上でパラ58を読み込んで、それぞれのセンテンスの内容と位置づけや意義について参加者同士で活発に議論しました(この講座で文章を読み込む際には「正解」があるわけではないので、参加者がそれぞれどのように考えるか議論します)。

  ロジカル・シンキングのコツの1つは、自分の頭の中で論理性をチェックするためのフォーマット(基軸)をいくつ用意できているか、です。例えば、新聞などを読んである単語を見たときにその単語の反意語、同意語などを考えてみるクセをつけることもロジカル・シンキングの練習になると思います。

講義資料(第4回レジュメ)

第5回 COP15 コペンハーゲン合意

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第5回目は、会議自体が成功だったのか失敗だったのかで議論になったCOP15でのコペンハーゲン合意を取り上げました。

  今回の目的は1文1文をじっくりと読み込むことで、使われている単語の言い換え、言い換えた場合の意味の強弱の変化、当該単語がなくても意味が通じるのであれば、その単語が含まれていることによるメッセージ性について、参加者間で丁寧に議論しました。

  そうした議論の中で、単語の言い換えを考える場合、「強弱」という軸と「主観・客観」の軸をつかった視座で考えてみる、という視点が参加者の中から出てきました。すなわち、例えば、underline(「強調する」)という単語、強弱の軸でいえば、underlineをstate(「述べる」)に変更すれば、文章としての位置づけが弱くなる方向に変化する一方で、insist(「主張する」)などの単語で言い換える場合には、強弱とは別に主観性が含まれてくることになります。そうした発想で、横軸と縦軸の双方の観点から英単語を整理してみると文章の意図や位置づけがよりわかりやすくなると思います(それにより、会議への参加者の意向や対立度合い、あるいは対立点の座標点(それがわかることで、時系列で観察した場合の変化を理解することができるようになる)などが把握できる)。
  毎回のことですが、この講座で文章を読み込む際には「正解」があるわけではないので、参加者各自がそれぞれどのように考えるか議論することを通じて新たな発見もありました。

講義資料(第5回レジュメ)

第6回 国連総会サイバーセキュリティ関連決議(2001〜)

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  「国際共同声明を読み込む講座」の第6回目は、90年代半ばのインターネットの商用化以降、過去20年弱の間に急速に普及したインターネットをめぐる課題としてサイバーセキュリティをテーマとして取り上げました。

  まずは、インターネットの仕組みについて簡単に説明するとともに、「インターガバナンス」という言葉の下で世界各国、いや、国だけではなく、civil society(市民社会)も含めて世界的な会議の場で喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を行っている経緯と現状をごく簡単におさらいしました。

  その上で、10年ほど前にあたる2003年と2004年の2カ年にわたる国連総会の場で決議された「サイバーセキュリティ」に関する決議の内容を丁寧に読み込んで行きました。

  1つ1つの文章は英語としてはけっして難しいものではなく、意識しなければすんなり流してしまいそうです。大学受験などであればそれで十分すぎるかもしれませんが、国際交渉の場ではそこからがスタートです。
使われている単語で文章の意味がどのように変わるか、自分がある立場から主張するとすれば、どの単語やフレーズをどのように変えるか、その提案に対するありうべし反論は、といった議論を参加者の間で活発に行いました。

  なお、今回は国連の意思決定の構造として総会での議論の前に各委員会(サイバーセキュリティの場合には第2委員会でした)の決議案もテキストとして配布し、総会で採択された決議との相違があるか否か、あるとしたら総会でなぜ変更されたのかを議論しようと考えていましたが、時間切れとなりました。

  本年は昨年のG8サミット(仏:ドーヴィル)の際にサルコジ大統領(当時)が急遽サイバーセキュリティをテーマとして取り上げて以降、一連の関係の国際会議の集大成、あるいはひとつの区切りがつく年です。本年晩秋から初冬にかけて一連のサイバーセキュリティを巡る国際会議での議論の結果が出てきたら、本講座でもまたサイバーセキュリティをテーマとして取り上げ、今回取り上げた2003年時の議論からなにが、どのように展開してきたかを参加者の方々と議論しながら考察してみたいと思います。

講義資料 第6回レジュメ
講義資料 国連決議(2003年1月)
講義資料 国連決議案(2003年12月)
講義資料 国連決議(2004年1月)

第7回 核不拡散条約(NPT)

  「国際共同声明を読み込む講座」の第7回目は、冷戦の真っ最中、核戦争の恐怖が目の前にあったキューバ危機のあと、1968年に作られた条約である「核不拡散条約(NPT)」を取り上げました。

  時代背景もあり、核不拡散条約は内容として本質的に(核兵器国と非核兵器国間の権利と義務の点で)不平等な条約ですが、他方で核戦争が勃発したら人類、あるいは地球に及ぼす影響が甚大すぎて核兵器の拡散をとても許容することができないという、理想と現実のせめぎ合いのぎりぎりのところでバランスを取っている条約でもあります。

  今回の学びの主なポイントは以下の2つです。
<条約の論理構成>
  条約は通常主権国家を拘束するものですので、その内容は国内の法律と同様、論理構成はかっちりしています。今回は、NPTがどのような論理で構成されているのか(法律は、目的、執行、評価、担保等をセットで考えるのが基本となります)、どの部分が対立論点になったであろうかを想像し、自分が一方の立場であれば(ただし核兵器の不拡散という大きな目標自体は立場を問わず共有)どのような主張(センテンス、使う英単語)をしたであろうかを実際に考えて議論しながら英文を読み込みました。
ベン図を使って概念の大小関係をとらえ、禁止される行為が網羅的で抜け道がないかも参加者で議論しました。そうしたことで、法律特有の論理構成をしっかり把握できました。

<法律用語の言い回し>
  ひとつひとつの英単語の意味は知っていても、条約や決議等で使われる英語は言い回しなどが特殊な面があります。
  普段はあまり読んだことがないような調子(格調:高いか低いかは別として)の英文にも慣れることを目指しました。条文の第1条をじっくりと読み込み解釈をした後は、第2条を実際に自力で考えてみると参加者のみなさんも意外にすんなり法律的構成が理解できたようです。
“hereinafter”, “furtherance”, “liquidation”, “pursuant to”等、契約書等の法的文書によく見られる、ある意味特殊な単語も押さえておきました。

その他、NPTが核兵器国と非核兵器国との間の不平等な条約であることも踏まえつつ、全体の中での核兵器国と非核兵器国との間の権利義務のバランスの取り方、各条文ごとの規定により、禁止される行為の範囲が明確でかつ漏れがないように工夫されていることについて、1つ1つの単語やセンテンスでカバーされる禁止行為の範囲と論理をこまかく読み込み、解釈してみました。

講義資料 第7回レジュメ
講義資料 核不拡散条約

第8回 人間の安全保障

  今回は、2001年のアナン国連事務総長の訪日の際に設置が発表された「人間の安全保障委員会」(緒方貞子、アマルティア・セン両共同議長)が2003年にアナン国連事務総長に提出したレポートのアウトラインを取り上げました。

今回取り上げた文章は、これまでの例のように立場の異なる主張のぶつかり合いからどのような妥協がなされているのか(あるいはそれがどのように表現の英文になっているのか)を読み込む対象となるようなものというよりも、委員会の報告書を取り上げましたので、内容としては同じ方向を向いた「提言」といった色彩が強いものです。また、世界の著名な「有識者」が委員として名を連ねた報告書ですから、そのアウトラインの英文も洗練された格調高いものになっています。

やり方としては、パラグラフ毎に英文を読みつつ、参加者同士で気づきの点や疑問点、そこから敷衍される意図等について、アスペンセミナーをイメージしつつ、全員参加での議論を活発に行いました。

参加者が自由な立場から、時に素朴な疑問を、時に専門的な知識に基づく鋭い分析をし、この分野にまったく知見がない参加者も知的刺激を存分に得ることができたと思います。

例えばこのアウトラインの最初のバラグラフにある” Political liberalization and democratization opens new opportunities but also new fault lines, such as political and economic instabilities and conflicts within states.”というセンテンスについて、instabilityを惹起させる要因としてpolitical liberalizationとdemocratizationを指摘するのはかなり意欲的、あるいは踏み込んだ指摘ではないか、といった意見や、”Protection shields people from dangers”のshieldsという単語の使い方が面白い(興味深い)、”protection”という名目で実質的に内政干渉に相当することができてしまうのではないか(あるいはその目的であえてprotectionが必要だということを謳っているのではないか)といったことなど、文章を読みながら、それぞれが異なる視点やアプローチで単語の使い方からセンテンスの内容まで感じたこと、思ったことをそのまま発言していきました。

なかでも、参加者の意見や感覚が異なったのは、”Human Security”と”Human Rights”は概念として重なっているのか、大小関係なのか、あるいは重なっているとしたらどちらが広い概念なのかという点でした。アウトラインのパラ4には”Human security complements state security, furthers human development and enhances human rights”というセンテンスがあり、これをきっかけにhuman securityとhuman rightsの議論が盛り上がったのですが、ここでのポイントはなにが正解かではなく、なにを感じたのか、それはなぜか、他の人はどう思うのか、などの意見をかわすことで自分自身の意見も深く掘り下げていくきっかけになるということです。

このようにフラットでインタラクティブなやりとりは、実はかなり贅沢な「知の磁場」あるいは「知の互酬関係」といってもいいのかも知れません。特に今回取り上げた英文は格調が高いものであったことから、単なる「英語の勉強としてではなく、その文章に化体している意図を丁寧に読み解くこと、つまり、なんのためにその単語が選択され、そのセンテンスが書かれているのかを考えることは、広く深いバックヤードの知識も動員されざるをえず、日常生活の惰性で肥満化した脳みそをシャッフルさせた心地よい「脳の筋トレ」となりました。

ご参加された方々、ありがとうございました。

講義資料 第8回レジュメ
講義資料 「人間の安全保障委員会」報告書アウトライン
参考資料 外務省取りまとめ(「人間の安全保障」に言及されている文書)

第9回 COP18「ドーハ合意」:理想と現実のギャップを表現する文章を学ぶ

  2013年2月6日(水)午後7時〜8時半
  今回は、理想と現実のギャップのはざまで当事者が苦心して妥協点を探った結果であるCOP18の文章を取り上げます。会議の結果が成功か失敗かといった評価から離れて、文章として共同声明文を読んだときに英語表現として学べることはたくさんあり、また各国の微妙な立ち位置も「賛成」と「反対」の二極で単純化しきれない、それぞれの立ち位置を推測できるようになります。

「国際共同声明を読み込む講座 II」第1回

G7/8の共同声明ができるまで

• 国内 – 外務省内の体制づくり – 各省庁への照会 – 日本としての案の形成
• メンバー国 – ホスト国の主導 – ホスト国からの照会
• シェルパによる調整
• 分野別会合からのインプット 本日のワークショップの段取り
• 共同声明の目次づくり – 外務省の担当責任者になったつもりでドラフトを – 世界情勢を考えながら。。。 – どんなテーマを含めるか – グループ内でディスカッション
• 個別分野でのすすめ方 – あなたはドラフトの担当責任者。 – とりあげるトピックについて、自分なりの考えを持つ。 – 盛り込む単語、表現、削除することの理由/論理を考える。 – 正解はない!自分なりの考えを持つことが大切。 – 今回は、すでにあるテキストの趣旨や背景をいかに読み取るかの実 践。次回以降、表現をめぐる交渉のプロセスに触れて行く予定。

(参考)「ブラッセルG7サミット宣言」の目次
• (1)前文
• (2)グローバル経済(Global Economy)
• (3)エネルギー(Energy)
• (4)気候変動(Climate Change)
• (5)開発(Development)
• (6)ウクライナ(Ukraine)
• (7)シリア(Syria)
• (8)リビア(Libya)
• (9)マリと中央アフリカ共和国(Mali and Central African Republic)
• (10)イラン(Iran)
• (11)北朝鮮(North Korea)
• (12)中東和平交渉(Middle East Peace Process)
• (13)アフガニスタン(Afghanistan)
• (14)海上航行と航空(MariPme NavigaPon and AviaPon)
• (15)その他(Other issues) 本日のワークショップの段取り

共同声明の目次づくり

• 本日取り上げるテーマ – 前文(練習)
・どのような点に「アンテナ」を張るのか
★使われている単語/表現
★名宛人(誰に対するメッセージと読むか)
★過去の表現との違い(挿入/削除)
・思考プロセス(問題点発掘パターン)に触れる

前文

a) We, the Leaders of Canada, France, Germany, Italy, Japan, the United Kingdom, the United States, the President of the European Council and the President of the European Commission, met in Brussels on 4 and 5 June 2014.(2013年は”As leaders of G8, we…”)
b) This Group came together because of shared beliefs and shared responsibiliPes. We are profoundly commi]ed to the values of freedom and democracy, and their universality and to fostering peace and security. (2013年にはないパラグラフ)
c) We believe in open economies, open sociePes and open governments, including respect for human rights and the rule of law, as the basis for lasPng growth and stability. (昨年は、”including respect for human rights and the rule of law”はない)

前文

a) For nearly forty years, we have shown through our acPons that collecPve will can be a powerful catalyst for progress. (このセンテンスはないと困るか?)
b) Our efforts to address major global challenges have also been guided by a commitment to transparency, accountability and partnership with other concerned members of the internaPonal community. (このセンテンスは来年も入れるか?)
c) We remain bound together as a group by these values and this vision. Guided by these shared values and principles, we will conPnue to work together to meet the challenges of our Pmes.(このセンテンスを入れる意図は?ないと困るか?)
d) We thank the European Union for hosPng this Summit and welcome Germany’s Presidency.(前回にはない表現だが。。。)

本日のワークショップの段取り 1

• 共同声明の目次づくり

• 本日取り上げるテーマ
– 前文(練習)
– グローバル経済(Global Economy)

グローバル経済(Global Economy)

3) a) We will take further steps to support strong, sustainable and balanced growth, with a common goal of increasing the resilience of our economies. We will present ambiPous and comprehensive growth strategies at the G20 Summit in Brisbane, to include acPon across a broad front including in the areas of investment, small and medium enterprises, employment and parPcipaPon of women, and trade and innovaPon, in addiPon to macroeconomic policies.
b) We will conPnue to implement our fiscal strategies flexibly to take into account near-term economic condiPons, so as to support economic growth and job creaPon, while pufng debt as a share of GDP on a sustainable path. (2013年には”medium-term fiscal sustainability”があったが。。。) グローバル経済(Global Economy)
4) a) We agreed that 2014 will be the year in which we focus on substanPally complePng key aspects of the core financial reforms that we undertook in response to the global financial crisis: building resilient financial insPtuPons; ending too-big-to-fail; addressing shadow banking risks; and making derivaPves markets safer. We remain commi]ed to the agreed G20 roadmap for work on relevant shadow banking acPviPes with clear deadlines and acPons to progress rapidly towards strengthened and comprehensive oversight and regulaPon appropriate to the systemic risks posed. We will remain vigilant in the face of global risk and vulnerabiliPes.
a) And we remain commi]ed to tackling tax avoidance including through the G20/ OrganisaPon of Economic CooperaPon and Development (OECD) Base Erosion and Profit Shiiing AcPon Plan as set out in the agreed Pmetable, and tax evasion, where we look forward to the rapid implementaPon of the new single global standard for automaPc exchange of tax informaPon. We call on all jurisdicPons to take similar acPon.(前回は” We call on all jurisdicPons to adopt … at the earliest opportunity”となっていたが。。。)

本日のワークショップの段取り 2

• 共同声明の目次づくり
• 本日取り上げるテーマ – 前文(練習)
– グローバル経済(Global Economy)
– エネルギー(Energy)

エネルギー(Energy)

6) a) The use of energy supplies as a means of poliPcal coercion or as a threat to security is unacceptable.(このセンテンスは参加者のどういった意図があるか?)
b) The crisis in Ukraine makes plain that energy security must be at the centre of our collecPve agenda and requires a step change to our approach to diversifying energy supplies and modernising our energy infrastructure. (”diversifying energy supplies”, “modernising our energy infrastructure”が言及された意図/背景は?)
c) Under the Rome G7 Energy IniPaPve, we will idenPfy and implement concrete domesPc policies by each of our governments separately and together, to build a more compePPve, diversified, resilient and low-carbon energy system. This work will be based on the core principles agreed by our Ministers of Energy on May 5-6 2014, in Rome:

本日のワークショップの段取り 3

• 共同声明の目次づくり
• 本日取り上げるテーマ
– 前文(練習)
– グローバル経済(Global Economy)
– エネルギー(Energy)
– 開発(Development)

開発(Development)

19) a) We will conPnue to work to tackle tax evasion and illicit flows of finance, including by supporPng developing countries to strengthen their tax base and help create stable and sustainable states. (途上国がなにを主張していると考えられるか?)
b) We renew our commitment to deny …(中略), and other crimes, ensuring that beneficial ownership informaPon is available in a Pmely fashion to financial intelligence units, tax collecPon and law enforcement agencies, …(中略)and other relevant internaPonal standards and our naPonal acPon plans in line with the principles we agreed at Lough Erne. Greater transparency in this area will help developing countries.(最後のセンテンスが言及された意図/背景は?)

本日のワークショップの段取り 4

• 共同声明の目次づくり
• 本日取り上げるテーマ
– 前文(練習)
– グローバル経済(Global Economy)
– エネルギー(Energy)
– 開発(Development)
– ウクライナ(Ukraine)

ウクライナ(Ukraine)

24) a) We welcome the successful conduct under difficult circumstances of the elecPon in Ukraine on 25 May. The strong voter turnout underlined the determinaPon of Ukraine’s ciPzens to determine the future of their country. We welcome Petro Poroshenko as the Presidentelect of Ukraine and commend him for reaching out to all the people of Ukraine. (commend以下のセンテンスが挿入されている背景/意図は?)
27) a) We are united in condemning the Russian FederaPon’s conPnuing violaPon of the sovereignty and territorial integrity of Ukraine. Russia’s illegal annexaPon of Crimea, and acPons to de-stabilise eastern Ukraine are unacceptable and must stop. These acPons violate fundamental principles of internaPonal law (とは?) and should be a concern for all naPons. (最後のセンテンスが言及された意図/背景は?)
ウクライナ (Ukraine) 28) a) We stand ready to intensify targeted sancPons and to implement significant addiPonal restricPve measures to impose further costs on Russia should events so require. (最後のセンテンスが挿入されている背景/意図は?)

本日のワークショップの段取り 5

• 共同声明の目次づくり
• 本日取り上げるテーマ
– 前文(練習)
– グローバル経済(Global Economy)
– エネルギー(Energy)
– 開発(Development)
– ウクライナ(Ukraine)
– 北朝鮮(North Korea)

北朝鮮(North Korea)

36) a) We strongly condemn (2013年は”remain deeply concerned about”) North Korea’s conPnued development of its nuclear and ballisPc missile programmes.
b) We call on the internaPonal community to implement fully UN sancPons. We reiterate our grave concerns over the ongoing systemaPc, widespread and gross human rights violaPons in North Korea documented in the report of the UN Commission of Inquiry, and urge North Korea to take immediate steps to address these violaPons, including on the abducPons issue, and cooperate fully with all relevant UN bodies. We conPnue to work to advance accountability for North Korea‘s serious human rights violaPons. (日本の意向(拉致問題)は十分反映されているか?自分なら日本政府に何点をつけるか?)

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