Vol.2「グローバルな現代に、国際機関で働くという選択肢」松本 冴未 様
松本冴未さんは、今年5月に、国連専門機関の国際電気通信連合(ITU)アジア地域事務所に赴任されました。
松本さんは、昨年、ICBが実施した「国際会議人材育成講座」を受講いただいています。これから国際機関への就職をめざす方にとっては大変有益な内容ですので、是非ご覧ください。
ご意見ご質問のある方は事務局にお知らせください。
グローバルな現代に、国際機関で働くという選択肢
松本 冴未
Introduction
ICB の読者のみなさま、はじめまして。International Telecommunication Union (以下、ITU) のアジア太平洋地域事務所(在バンコク)にて、プログラムオフィサーを務める松本と申します。ITU は、通信技術における国際基準の設定や、デジタルテクノロジーや ICT を軸としたメンバーステートの支援を行い、民間企業とも強い連携を持つ国際機関です。1865年に始まった組織で、国連システムの中では最も歴史あるエージェンシーです。本コラムでは、これから国際機関で働くことを目標としている学生や社会人のキャリア形成の参考となることを願い、僭越ながら私個人の経験を綴ります。
現在の仕事内容
ITU の中でも、私は Telecommunication Development Sector という、ブロードバンドコネクティビティや新興技術を用いて後開発途上国の発展を支援するチームで働いています。医療と衛生、教育、雇用、環境問題など、後開発途上国の直面する課題は多岐に渡りますが、私のチームはメンバーステートの現状やニーズに基づいた、包括的なデジタル政策や仕組みづくりのサポートをしたり、ワークプラン設計や、プログラムの調整・実装などを通じた実務的な支援を提供します。私自身は、Smart Island Smart Village プログラムと呼ばれる、主にアジア太平洋地域の小島嶼開発途上国のデジタル化を促進するプログラムを担当しています。
これまでのキャリアと、国際機関で働こうと思ったきっかけ
私はごく普通の一般家庭で生まれ育ち、帰国子女ではありません。九州の公立中学の授業で初めて英語を学びました。同じ頃、アフリカの飢餓や栄養失調の子供たちについて報道する映像を見たことと、緒方貞子さんのドキュメンタリーをテレビで見たことをきっかけに、漠然と国連を意識したのを覚えています。その後、高校時代に地元のJICAの活動に携わる機会に恵まれたことで、国際協力を仕事にしたいと具体的に夢見るようになり、英語の習得と多様な環境下での生活を経験するために、アメリカの大学へ進学しました。リーマンショック直後の不況下で行った就職活動では、日本の大企業には全くご縁がなく、ユニセフ東京事務所でのボランティア活動を経て2011年に Google の日本法人へ就職しました。当時日系企業の面接では、ビジネスを通じた国際社会への貢献をしたい、といっても全く響かなかったのですが、Google でインターネットやデジタルプラットフォームが解決し得る社会課題や、途上国発展の可能性について話したらところ、とても真剣に聞いていただけたのを覚えています。その後英国の大学院でMBAを取得し、Microsoft とグローバルフィンテック企業でのマーケティング職を経て、2022年にJPO制度を通じ現職での勤務を開始しました。この間、「テクノロジーを通じ開発途上国の人々の生活をより豊かなものにしたい」という夢は一貫して消えず、国連組織への転職を意識し活動していました。
具体的にとった行動
学部時代は雲の上の存在に見えていた国際機関ですが、ニューヨークへ旅行で訪れた際に、「国連フォーラム」という国連職員や関心を持つ学生が運営するコミュニティに入れていただいたことをきっかけに、より国連が身近な存在になりました。幹事の一員として記事を書いたり、東ティモールのスタディーツアーの運営に参加したりしたことで、今ではよきメンターとなる方と知り合うこともできました。また、東京で就職活動をしながら行っていたユニセフでの広報ボランティアを通じ、職員の方と一緒に働く機会をいただいたと同時に、当時英語力以外何もスキルを持ち合わせていない自分の「人財」としての Competitiveness のなさも痛感しました。そのため、先に民間企業で鍛えてもらおうと思い入社したのが Google でしたが、ここではコア業務に加え、東日本大震災の社内ボランティア企画を運営するなど、関連する課外活動にも時間をあてました。戦略的というよりも興味本位でやっていた活動でしたが、結果的に自然な形でテクノロジーと地域支援に関心の高い社員とのネットワークができ、同時にインターネットが貢献できることやその限界も知りました。
その後、国際機関の必須応募条件である修士号を取得した際も、英国大学院への出願・面接時においてこれまでの人脈や経験が非常に役立ちました。MBA中も、コーポレートインターンシップの代わりに UNDP で短期プロジェクトに参加させていただくなど、国際機関の業務に携わる機会を意識的に選んでいました。修士号取得後は、民間企業で働きながら国際機関の公募やJPOに応募し、結果として外務省のJPO制度で国際機関へのエントリーポイントをいただいた次第です。
振り返ると、学生時代やテクノロジー企業で得た知識とマネジメントスキルは、ITUでの仕事を遂行するにあたり不可欠なものとなっています。私の場合は外資系企業や多国籍メンバーから構成されるチームで働いた時間が長いのですが、ここで経験した失敗や、そこから学んだリーダーシップの取り方、同僚と信頼関係を築くノウハウ、アウトプットの出し方、面接でのアピールの仕方は国際機関でも非常に役立っています。特に、国際的なチームでよく必要になる、ローコンテクストな文化環境でのコミュニケーションスキルやコラボレーションの仕方、ソーシャルスキルは財産です。
これからグローバルな舞台で働くことを夢見る人へのメッセージ
国際機関に長く勤める先輩や開発関係者の方が若手に仰ることの中に、「国連である必要はない」という言葉をよく耳にします。意図は、グローバル化が加速しSDGsに注目が集まる現代においては、民間企業やNGOでできることも多く、視野を広げてできることをするのがよい、ということだと思います。これはまさに仰る通りだと思います。一方で、国際機関でしかできないこともあります。さらに、Twitter などSNS上では、若手の働く場所としての国際機関を批判する意見も最近増えているようですが、個人的には、もし国際機関で働くことが夢であれば、実現へ向け迷わず行動していただけたら嬉しいなと思います。
その過程でわりとすぐにとれる具体的なアクションとしては、目標の仕事を既にしている方に話を直接聞くことではないでしょうか。今は LinkedIn も普及していますし、スマートフォンを開けば誰が何をしているかがわかる時代です。たとえ面識のない相手だとしても、心から尊敬し丁寧にお願いしてみる。お時間をいただけた場合には、事前に質問を準備し、お仕事への好奇心と相手への感謝の気持ちを示す、など、日本人にとっては割と当たり前のことですが、これからのデジタルなグローバル社会において、不可欠なソーシャルスキルではないかと思います。陰ながら、これから国際機関を目指す方を応援しています。